イギリス時計産業の指標となるKPMGレポートから得られた6つの洞察

示唆に満ちた調査から、今後の成長に向けた土台作りを。

2020年に設立されたBritish Alliance of Watch and Clock Makers(以下、アライアンス)は、イギリスにおける時計製造業の現代的な再生を奨励し、導いていくことを使命とする業界団体だ。前向きな変化をもたらすためには、しっかりとした基盤を固めることが重要だ。この考えに基づきアライアンスは、世界的な会計事務所であるKPMGにイギリス時計産業の現状を分析した指標レポートの作成を依頼した。このレポートは時計産業の興味深い側面を見せており、今後の成長を考える上で有用なツールとなると思う。

アライアンスの共同設立者であるアリスター・オーズリー氏は語る。「イギリスの時計産業にとって、初の指標調査は重要な節目となります。私たちは、明らかに復活しつつあるこの分野の基準を確立するために、このレポートを依頼しました。私たちの主な目的は、業界の規模、範囲、方向性を確立すること、そして何よりも時計製造がイギリス経済のなかで注目すべきビジネスとして復活したことを立証するということでした」

  1. イギリス経済に占める時計製造の割合は意外に大きい
     イギリスの時計産業は、歴史的に世界有数の規模を誇っていた。マッジやハリソンなどの時計師が目覚ましい技術革新を行い、Worshipful Company of ClockmakersやBritish Horological Instituteなどの組織も繁栄した。20世紀に入ると、アメリカやスイスとの競争、クォーツウォッチの登場など、さまざまな要因で同国の時計産業は衰退していった。現在、同国の時計産業は復活しており、イギリス経済のなかでも注目すべきセクターと考えられている。しかし、私の言葉を鵜呑みにしないでほしい。世界最大級の会計機関であるKPMGの言葉を信じよう。KPMGの指標レポートは「イギリスの時計産業は、非常に小規模な会社から数百万ポンド規模の会社まで、約100社の企業で構成されている」と説明している。
  2. イギリスの時計メーカーは若い会社が占める割合が高い
     イギリスの時計産業が復活している証拠は、会社の若さにも表れている。スミス オブ ダービー(Smith of Derby)やフィアーズ(Fears)といった企業は19世紀に設立されたが、現在では多くの新しい企業が活動している。KPMGはレポートのなかで「回答者のなかには2010年以降に市場に参入した比較的若い企業の割合が高く、この分野が大きな発展の時期を迎える可能性を示している 」と説明する。
  3. イギリスの時計は5000ポンド(約77万円)以下で販売される割合が多い
     レポートによると、業界は幅広い価格の時計を販売しているが、5000ポンド以下の価格帯に集中しているといい、「調査対象となった事業者も幅広い価格帯をカバーするが、250ポンドから5000ポンドの範囲に集中している」 と説明する。いくつかの例外はあり、特に平均価格帯が10万ポンド(約1525万円)を超える企業(ロジャー・W・スミス)もある。これはイギリスのメーカーにとって、競争の少ない高価格帯に移行するチャンスかもしれない。
  4. イギリスの時計メーカーの主な輸出先は北米
     地理的な理由から、イギリスの時計の主な輸出先はヨーロッパだと思われるかもしれない。KPMGによると、同国の時計のヨーロッパにおける売上は全体の約12.78%で、北米への輸出売上は18.35%となっている。レポートによると「回答者は直近の会計年度において収益の55%をイギリス国内で上げているが、北米市場は需要の多くの割合(19%)を占めており、市場規模、デザインやスタイルの独自性を表す“イギリスらしさ”に対するアメリカの消費者の傾向を考慮すると、ビジネス拡大の重要なチャンスがあると言える」とのことだ。
  5. イギリスの時計メーカーの多くは、部品を海外から調達している
     イギリスの時計サプライチェーンはかつてのようには機能していないが、これには明るい兆しがあるかもしれない。KPMGによれば、時計メーカーの多くは部品を他国(主に中国)から調達しているという。「大多数の企業は部品を海外から調達しているが、これはイギリス国内で購入したくないからではない。価格と品質のバランスが適切であると思われる部品を国内で調達できないからだ」。このことは、新しい時計専門のサプライチェーンビジネスが始まるきっかけになるかもしれない。
  6. イギリスの時計職人を従業員として雇いたいという需要は大きい
     現場で働く時計職人が世界的に不足しているという話をよく耳にするが、イギリスの時計業界でもそれが確認された。レポートによると「回答者の多く(68%)は、将来的に技術者をより多く採用したいと述べている。だが、回答者の33%は国内の時計職人が全般的に不足していること、ブレグジットにより海外からの採用が困難になっていることなど、さまざまな要因により、これらの職種への採用が困難になると予想している」

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